女性の視点からのトイレ:48 尿分別式コンポストトイレ

[シリーズ:女性の視点からのトイレ]
48 尿分別式コンポストトイレ〈節水と、トイレ・生ごみの資源循環〉
日本工業出版社「建築設備と配管工事」2011/9月号巻末に、上記タイトルのレポートが掲載されました。「GreenLyコンポストトイレ」開発の経緯などを書いております。ぜひご一読ください。


1、 はじめに

1-1 水の話(1)竜田川のモミジ
阪神大震災の前年まで、私が住んでいた奈良県生駒 郡でのこと。高台の新興住宅から流れ出た排水が、古 今集に詠まれた竜田川のもみじを枯らしてしまった。 お風呂などの温かい排水が、毎日、マンホールの隙間 から湯気を上げて流れ下り集中浄化槽へ、そしてまも なく川へと排水された。枯れはじめたモミジは、川岸 の道を走り回る自動車の邪魔と、容赦なく切り倒され た。

1-2 水の話(2)カナダの食器洗い
20 年以上前、2ヶ月余りカナダを旅したときの出来事。バンクバーからロッキー山脈を越えエドモント ンに着いたのは 4 月はじめ、翌日-20°Cの中、ホーム ステイ先を外出し、道に迷い、ホストファミリーに迷 惑を掛けたことを思い出す。ところでそのご夫婦の故 郷は、数ヶ月間、川も湖も凍ってしまう厳冬の地マニ トバ(カナダの内陸部)、それ故か水を大切にした暮 らしぶりに驚かされた。油で汚れた鍋やお皿洗いは、 ボウルに溜めた水に数滴の洗剤を落とし、スポンジで ごしごし、あとは布巾でふき取るだけ。当時カナダの 多くの家庭では溜め水で食器を洗うのは常識で、リン スをすることもあった。「Alas! すすがないの」、「故 郷の 90 歳になるおばあさんもこのやり方でずっと健 康よ、『 In Rome, do as the Romans do.』」と。 私たちも見習う時がきていると思う。

1-3 トイレットペーパーと節水
エドモントンのお宅は、2 人暮らしでトイレが 3 箇所。 便器の横には蓋なしの大きい籠が置かれ、「ト イレットペーパーは下水に流さないでね」と指示され た。「なるほど」と感心したが、実際これを実行する のはずいぶん後になってからのこと。
この 4 月に 87 歳で他界した義母は、昔から何十年も、水洗トイレはいつも節水、トイレットペーパーは 流さなかった。台所では洗剤はほとんど使わず、流し の近くにバケツを置いて、お米のとぎ汁・お茶碗の洗 い水を溜めて、こまめに庭の野菜や花に水遣りを怠ら なかった。季節ごとに数種の野菜を育てていたが、肥 料を買った話は一度も聞いたことがなかった。

1.jpg
女性は、トイレのたびにトイレットペーパーを使う。 トイレットペーパーを流さなければ、排水は 1 回 500ml 以下で十分、かなりの節水ができる。ところ で、1 日のトイレは 7~10 回、小で 1 回 40cm を目 安に、トイレットペーパーはシングル巻きで4mが必 要。使ったトイレットペーパーを屑籠に溜めてみると その嵩に驚く。皆さんは 1 回の使用量はどれくらい。 日本の人口 1 億 2000 万人の半分以上の女性がこれ を実行すれば、ものすごい嵩のトイレットペーパーを 流さず、遠くの下水処理場に流れ着いて汚泥となるこ ともなく、膨大な汚泥処理費用が削減できるのではと 思う。トイレットペーパーの使い方は、特に、女の子 の幼児期の教育に期待したい。知人に機会ある毎に話 をするが、大抵は「何で?」と、呆れ顔をされる。

2、初めてのコンポストトイレ体験
1999 年岡山県の田舎暮らしで、電気ヒーター装備のカナダ製小型コンポストトイレ 1 人用を使い始めた。 尿と大便は分別せずドラムの処理槽に入り、定期的な チップの追加と攪拌を行う。サーモヒーターと換気フ ァンを使って水分(尿)をコンポストトイレの外に蒸 発させる。微生物とエサ(排泄物)、周辺温度と水分 率のバランスが適切なら臭気は発生しない。ヒーター 温度 40°C~60°C/消費電気最大 150W。堆肥は、1 ~3 ヶ月毎におよそ10Lを受け皿(引き出し)に取 り出す。受け皿にそのまま 1 ヶ月保管して、堆肥とし て利用する。1 年後には、同社の電気なしモデル(ソ ーラーパネル用の 12V 換気ファン装備)も併用した。

3、コンポストトイレ欧米の事情
コンポストトイレの歴史は、100 年以上前に多くの「earth closet」が生産され、イギリスのビクトリア 女王も使ったと伝えられる。1930 年代にスエーデン で Clivus Multrum、1960 年代には Twin-chamber system がアジア・中央アメリカ・メキシコに導入さ れた。1970 年代には、北欧や北アメリカでは多くの コンポストトイレが生産されるようになった。
北アメリカでは 1960 代年~70年代に、産業の発 展に伴って大気汚染・河川の汚れなど環境悪化が深刻 になる一方、下水道の整備は進むものの莫大な費用が 問題となっていた。その下水の汚染源の 80%以上が 「尿」に起因するといわれ、汚水の発生源での処理の 必要と共に、コンポストトイレにも注目が集まった。

4、多種多様なコンポストトイレ 世界のコンポストトイレには、小型の家庭用から公 共施設などに設置される大掛かりな設備まで多くの種 類があり、それぞれに創意工夫がある。
David Del Porto 氏は、その著書「The Composting Toilet System Book」に以下のように 分類している。
(1)「self-contained(便器と処理槽が一体)」と「Centralized(便器はトイレ室・処理槽は床下)」
(2)「Batch(複数の貯蔵容器)」と「Continuous(単独の処理槽)」
(3)「Active(ヒーター・攪拌操作を行う」と「Passive(機械的な操作をしない)」
(4)生産品 と 個人製作
氏は「Batch」を支持するも、デメリットについて は、容器に排泄物を溜めて、いつ満タンになるのかを監視し、一杯になると、新しい容器と取替える作業に 骨が折れると報告する。氏は、「Batch」式に分類さ れる「Carousel」が、スカンジナビアでもっとも多く 設置されていると書き、「Carousel」は床下に、4 層 に区切られたスペースに順番に排泄物を溜めていくの だが、一杯になったスペースと空のスペースとのバラ ンスが悪くなり、スペースの移動・回転が困難である と報告している。多種多様なコンポストトイレには一 長一短がある。
そして、私が更なる改良を目指して、新しいコンポ ストトイレに挑戦したのは 2004 年であった。

5、コンポストトイレ開発の課題
コンポストトイレを必要とする人は、
(1)公共下水がない
(2)合併浄化槽費用が高く付く
(3)排泄物を安全な資源として利用したい
(4)野外活動の拠点で利用したい、また防災用として利用したい
などの事情がある。
下水がないところとは、都会から遠く離れた田舎、 山間、離島、山岳地帯等など、多くは寒冷地でもあり、 コンポストトイレ設置条件が揃わないところもある。
コンポストトイレを、臭気を出さす上手に使うには、 排泄物を分解してくれる好気性微生物の活動を活発に する環境因子(周辺温度・水分率・酸素供給)を整え、 最低限の維持管理を怠らないことが大切である。 その好気性微生物の適温は、周辺温度が 15°C以上で、 温度が高ければ高いほど排泄物の分解速度が早くな る。皮肉なことに、コンポストトイレの必要なところ では、その温度条件がより厳しい。好気性菌は、
(1)好冷性(6°C~20°C)
(2)中温性(21°C~45°C)
(3)高熱性 46°C~71°C、さらに超高熱性
と区分されているが、残念なことに通常 15°C以下で は多くが休眠又は死滅するとされている。
コンポストの保温や攪拌動力に風力・ソーラーパネ ルによる自然エネルギーを試みるものもあるが、設置 費用が高く天候に左右されやすい。

6、安全な堆肥の利用(大腸菌の処理)
コンポストトイレを使って、排泄物を安全な資源と して利用するには、大便の糞便性大腸菌駆除が必要で ある。そのためには、未熟成なままでは直接手で触れ ないこと(ゴム手袋の着用)、すぐ収穫する生野菜には施肥しないことが必要である。家庭で使うコンポス トトイレから取出した堆肥を、自分の田畑や花壇で利 用するとき、そこに重大な危険があるとは思えないが、 取扱には注意が必要である。
H15 年 7 月当時、岡山県で使っていたコンポスト トイレから取出した堆肥で、大腸菌駆除を試みた。
(1)取出したコンポスト(堆肥)を土嚢袋に 1 ヶ月以上保管した。(駆除期間は、周辺温度・堆肥の水 分率に左右されるが、保管期間は長ければ長いほ ど安全性が高くなる)
(2)取出したコンポストをビニール袋に入れ、炎天下 に約 15 分間放置し 55°Cを確認、さらにビニール 袋のコンポストを上下・裏表に返し、内部の温度 が 50°C~55°Cに達するのを確認した。
更に、堆肥の安全性に疑問がある場合は、石灰や草 木灰を混ぜて、殺菌する方法がある。岡山での実験結 果は、いずれも糞便性の大腸菌は検出されなかった。 (検査機関:共同組合岡山県環境整備協会 建築物飲料 水水質検査登録機関)

7、「トイレは分別式に」
コンポストトイレで排泄物を資源化するとき、尿と大便を分けて利用する方法がある。「分ける」か「分 けない」によって、よく知られるコンポストトイレ(バ イオトイレ)を例に、表 1 にまとめた。

2.jpg
家庭用コンポストトイレで尿と大便を分けると、その利点は、
(1)は植物の肥料としてすぐ活用できる。
(2)大便などの構成物(コンポスト)の水分率が保 たれ管理が簡単、コンポストに尿の塩分が蓄積しない。
尿は腎臓で生産される弱酸性・通常無菌、成人 1 日 平均 1.5L、90%以上が水分で植物の肥料となる養分 (窒素・りん・カリ)を含む。個人差はあるものの、 窒素は、年間3kg~5kg も活用できる。Ecological = Economical を目指すトイレは「尿分別式」コンポス トトイレであろうと思う。「分ける」必要があると考 えた。

3.jpg
8、 GreenLyの誕生
2004 年、開発に着手したコンポストトイレは、 2010 年に製品化した。商標は「GreenLy」とした。

8-1 「GreenLy の特長」
(1)1 尿は植物の肥料として、すぐに活用できる。 →オシッコ→肥料→作物→食物→
(2)ヒーターはつかわず省エネをめざす。電気のないところでの稼動を可能とする。
(3)攪拌は手動。大便などの構成物(コンポスト) 30L~50Lを手動攪拌するために特殊な形態 の攪拌体が必要であった。先行技術とにらめっこ で開発を進めた。 (4)周辺温度 15°C以下(5°C以上)で、大便等の分解 が進む GreenLy 独自の微生物母材を使用する。
(5)好気性微生物活動に適切な環境を整え、臭気を発生させない。
(6)最後に、大便を微生物分解して安全に活用する。

8-2 5月4日の実験
8人(大半が 30 代の男性)が、一番小さい GreenLy で 18 時間、使用実験をした。最近男性の着座でのト イレにあまり違和感がないとのこと、また尿分別式も 問題なし。年配の男性のためには小便器があったほう がよいかもしれない。

greenlymodels.jpg
9、生ごみも発生源でリサイクル
年間、1 人分約 150kg の生ごみを、ごみ収集車が集 めて、焼却する。この労力と処理費用削減のために、 1 人でも多く、生ごみを各家庭で処理し、庭やベラン ダで土に還しリサイクルできるとよいのだが。電気を 使わない生ごみ処理器「くうたくん」は、写真のよう なプラスチックバケツで、微生物と酵素の母材が、残 飯・茶がら・コーヒー糟・尐量の廃油・なべやフライ パンの汚れなど毎日 300gを、水蒸気と炭酸ガスなど に分解する。 嵩はほとんど増えず、母材は数年間継 続して使える。畑のコンポスターは、「くうたくん」 に入らないより大きな野菜くずなどを投入し、ドラム をグルグル回す。6ヶ月~1年に1回、取出して畑の 肥料になる。このドラムコンポスターでは、畑に出没 する害獣(いたち・ハクビシン・アライグマ・いのし しなど)が生ごみを食べ散らかさないのがよい。

namagomi.jpg
10、終わりに
排泄物を発生源で資源化する試みが、ますます広がる ことに期待し、水なし・電気なしで稼動できる GreenLy のようなコンポストトイレが、地震災害など 非常時のトイレとしても常設され、常から使われて、 万一の被災にも役に立つことを願っている。そのため には、一層の機能向上、改善・改良の積み重ねが必要 であろうと思う。

gardencomposter.jpg

参考文献 David Del Port & Carol Steinfeld "Composting Toilet System Book"


      

月別アーカイブ